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いったいどんなやつ

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いったいどんなやつ


 ベルガラスは両手を広げた。「わからん。本当にわからんのだ。だが、このおまえの考えはかなり役に立ちそうだ」
「へえ?」
「前に起きたことに似た出来事を次々に体験することになるなら、あらかじめなにが起きるかわかっているわけだからな。ちょっと考えてみてくれんか――いまからちょっと時間をさいて、この前どんなことが起きたか正確に思いだしてくれ」
「おじいさんはなにをするんだい?」
 ベルガラスはジョッキを飲みほして立ち上がった。「さっき言ったとおりさ――ベッドに戻る」
 その日の午後、ガリオンがすわって本を読んでいると、茶色のマントをきた礼儀正しい役人がドアをノックし、ヴァラナ皇帝が会いたがっておいでです、と伝えた。ガリオンは本を置くと、役人のあとについて、声の反響する大理石の廊下を通り、ヴァラナの書斎に向かった。
「ああ、ベルガリオン」かれがはいっていくと、ヴァラナは言った。「きみが興味を持ちそうなニュースがたったいま届いたのだよ。どうぞ、かけてくれたまえ」
「情報か?」ガリオンは皇帝の机のとなりにある、革張りの椅子に腰をおろした。
「先日きみたちが口にした例の男――ナラダス――がこのトル?ホネスで姿を見られている」
「ナラダスが? こんなに早くどうやってここにたどりついたんだろう? 最後に聞いたときは、アレンディアの〈大市〉から北へ馬を走らせていたのに」
「きみたちを追っていたのかね?」
「あれこれ聞き回って、大金をばらまいていたんだ」
「なんなら捕まえさせることもできるよ。わたしもその男に二、三たずねたいことがあるし、必要とあらば、数ヵ月間つかまえておくこともできる」
 ガリオンは考えた。しばらくたって、かれは残念そうに首をふった。「ナラダスはマロリーのグロリムなんだ。どんな牢屋でもものの一分で抜け出してしまう」
「帝国の地下牢はきわめて頑丈なんだぞ、ベルガリオン」ヴァラナはちょっと鼻白んで言った。
「それほど頑丈じゃないよ、ヴァラナ」皇帝がそういう事柄には頑固な確信を抱いているのを思いだして、ガリオンはちょっとほほえんだ。「じゃ、こう言おう、ナラダスには非凡な力がそなわっているんだ。あなたが話したがらない類の力だよ」
「ああ、例の」ヴァラナはけがらわしげに言った。
 ガリオンはうなずいた。「でも、家来たちにはナラダスから目を離させないほうがいい。やつがいることをぼくたちが知らないと思わせておけば、一味のところか――すくなくとも、なんらかの情報へぼくたちを導いてくれるかもしれない。ハラカンもここで姿を目撃されているし、あのふたりのあいだになんらかのつながりがあるのかどうか突き止めたいんだ」

 ヴァラナは微笑した。「わたしの人生にくらべると、きみの人生はずいぶん複雑なんだな。わたしが扱う現実はひとつだけだよ」
 ガリオンは皮肉っぽく肩をすくめた。「ひまつぶしの役にはたつね」
 ドアに軽いノックがあって、モリン卿が足をひきずるようにのろのろとはいってきた。「お邪魔して申し訳ございません、ですが、都市から物騒な知らせがはいってまいりました」
「ほう? 何事だ、モリン?」ヴァラナが聞いた。
「何者かがホネス家の人々を殺害しているのです――こっそりとですが、きわめて効率よく、です。この二晩で相当数が殺されました」
「毒を盛ったのか?」
「いいえ、陛下。この暗殺者はもっと直接的です。おとといの夜は数人をかれら自身の枕で窒息死させました。ひとりは墜落死しています。はじめこれらは自然死と思われました。ですが、昨晩から、暗殺者はナイフを使いはじめたのです」モリンはいたましげに首をふり、憤懣やるかたないようにつぶやいた。「ひどいことです。まったくもってひどいことです」
 ヴァラナはけげんそうだった。「長年にわたる例の不和はすべておさまったものと思っていたが。ホービテ一族のしわざだと思うか? 連中はいつまでも不満をこぼしているからな」
「だれにもわからないようです、陛下。ホネス家はおじけづいています。都市を逃げだしたり、屋敷を要塞化したりしています」
 ヴァラナはにやりとした。「ホネス一族の不幸にはわたしは少しも痛痒を感じないね。この犯人はなんらかの特徴を残していったか? 名の知れた暗殺者だと特定できるかね?」
「手がかりはありません、陛下。ホネス一族――生き残っている――の屋敷周辺に護衛をおくべきでしょうか?」
「兵隊なら連中も持っている」ヴァラナは肩をすくめた。「だが、おおやけに捜査状を発表して、犯人にわたしが話し合いをのぞんでいることを知らせるのだ」
「逮捕するつもり?」ガリオンはたずねた。
「さあ、そこまではわからない。ただ正体をつきとめて、もう少し厳重にルールを守るべきであることを教えてやりたいんだ、それだけさ。だろう」
 だがヴァラナが犯人を逮捕しないという点は、疑わしかった。
 トル?ホネスにおけるエラスタイドの祭りは大盛況だった。飲み過ぎて浮かれ騒ぐ人々が千鳥足でパーティからパーティへと渡り歩き、裕福な家族たちは互いの富をこれみよがしに見せびらかして競いあっていた。金も勢力もある人々のばかでかい邸宅は、はでな飾り布や色つきのランタンで飾りたてられた。富が豪勢な宴会に費やされ、しばしば悪趣味な娯楽が催された。宮殿での祝祭はもっと控え目だったが、ヴァラナ皇帝は内心忌み嫌う大勢の人々まで歓待してやっているような気持ちだった。
 特にその夜のために以前から予定されていた催しは、きらびやかな舞踏会のあとの豪華な晩餐だった。「きみたちふたりはわたしの栄えある賓客というわけだ」ヴァラナはガリオンとセ?ネドラに申しわたした。「わたしがこれに耐えなけりゃならないなら、きみたちにも耐えてもらわなけりゃな」
「わたしは遠慮したいわ、おじさま」セ?ネドラが悲しそうにほほえんで言った。「いまは祝い事をしたいような気分じゃないのよ」
「人生を避けるわけにはいかないんだよ、セ?ネドラ」ヴァラナはやさしく言った。「パーティは――この宮殿でおこなわれるつまらないパーティだって――きみの心を悲しみからそらす役に立つかもしれん」かれはずるそうにセ?ネドラを見た。「それに、きみが出席しなければ、ホネス一族やホービテ一族、それにヴォードゥ一族がほくそえむぞ」
 セ?ネドラはすばやく頭をおこした。目つきがひややかになった。「それもそうね。もちろん出席するわ。本当は着る服がないのよ」
「王宮の戸棚はどれもきみのドレスでぎっしりだよ、セ?ネドラ」ヴァラナは思い出させた。
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