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一房の髪がたちまち白

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一房の髪がたちまち白


「馬はあなたに会って喜んだ?」
「はい」
「じゃあ、お腹がすいたでしょう?」
「ええ――ちょっと」食堂を見まわしたエ優悅 避孕ランドはリヴァの女王の姿がないことに気づいた。
「セ?ネドラは?」
「すこし疲れているのよ」ポルガラが答えた。「さっきまでわたしとずっと話し合っていたの」
 エランドはポルガラを見つめ、理解した。それからもういちど食堂を見まわした。「じつは腹ぺこなんです」
 ポルガラがいとおしげに声をたてて笑った。「男の子ってみんな同じなのね」
「ぼくたちがちがっているほうがいいというわけ?」ガリオンがきいた。
「いいえ。そうでもないわ」
 翌朝、かなり早い時刻に、ポルガラとエランドはこれまでもずっとポルガラのものだった部屋で、暖炉を前にしていた。ポルガラは香り高いお茶のカップをのせた小テーブルをかたわらに、背もたれの高い椅子に腰かけていた。深い青のビロードの化粧着をはおり、大きな象牙の櫛を持っていた。エランドは彼女のまんまえの足のせ台にすわって、朝の儀式の一部に耐えていた。顔と耳と首すじを洗うのは、簡単に終わるのに、どう優悅 避孕いうわけか、髪をとかす段になると、いつもたっぷり十五分はかかるようだった。整髪に関するエランドの個人的嗜好は、きわめて基木的なものだった。目に髪がはいらなければ、それでいいのだ。しかし、ポルガラはかれの柔らかなアッシュ?ブロンドの巻毛に櫛をいれることになみなみならぬ喜びを見いだしているらしかった。一日の思いもよらないときに、ときどきポルガラの目が妙にやさしくなって、彼女の指がまるでみずからの意志で櫛に吸いよせられるように動くのに気づくと、エランドは観念した。なにもしないでうろうろしていたら、百パーセントだまって椅子にすわり、髪をとかしてもらうはめになるのだ。
 ドアに遠慮がちなノックがあった。
「はい、ガリオン?」ポルガラが返事をした。
「早すぎなかったならいいが、ポルおばさん。はい優思明ってかまわないかな?」
「もちろんよ」
 ガリオンは青の上着と細いズボンとやわらかい革の靴をはいていた。エランドは前から気づいていたが、この若いリヴァの王は、選択権があるのだとしても、青以外の色をほとんど身につけなかった。
「おはよう」ポルガラは櫛を持つ手をせっせと動かしながら言った。
「おはよう、ポルおばさん」ガリオンはそう言うと、ポルガラの椅子の正面の足のせ台にすわってもじもじしている少年を見て、「おはよう、エランド」ともったいぶって言った。
「ベルガリオン」エランドは会釈した。
「頭を動かさないで、エランド」ポルガラは静かに言った。「お茶をいかが、ガリオン?」
「いや、いらない」ガリオンは別の椅子をひいてポルガラとむきあって腰をおろした。「ダーニクは?」

「胸壁のあたりを散歩しているわ。日がのぼると、うちの中にいられない性分なのよ」
「そうだね」ガリオンはほほえんだ。「ファルドー農園にいたときからそうだったような気がするよ。どこにも不都合はない? 部屋のことだけれど?」
「ここにいるといつもながらとてもくつろぐわ。ある意味ではここは、わたしが永遠のわが家というものにたいして抱いている理想にもっとも近いのよ――すくなくとも現在までのところはね」ポルガラは濃い深紅のビロードの垂れ布や、背もたれのまっすぐな黒い革張りの椅子をながめて、満ち足りたためいきをもらした。
「ここはながいことポルおばさんの部屋だったんでしょう?」
「ええ。ベルダランが〈鉄拳〉と結婚したあと、わたしのためにここをとっておいてくれたのよ」
「かれはどんな人物だった?」
「〈鉄拳〉のこと? とても背が高くて――かれの父親と同じくらいに――とても強い人だったわね」ポルガラはエランドの髪に注意をもどした。
「バラクくらいあった?」
「もっとあったわ。でもバラクほどがっしりした体格ではなかったわね。チェレク王自身は七フィートもあって、息子たちはそろって大男だったの。〈猪首〉のドラスはまるで木の幹みたいで、雲つくような大男だったわ。〈鉄拳〉は多少細身で、もじゃもじゃの黒いひげをはやし、射るような青い目をしていたわね。ベルダランと結婚したときには、すでに髪にもひげにも白いものがまじっていたわ。でもね、それだけ歳をとっていても、かれにはわたしたちだれもが感じる純粋さがあったのよ。ここにいるエランドにわたしたちみんなが感じるような純粋さがね」
「ずいぶんよくおぼえているんだね。ぼくにとっては、〈鉄拳〉はつねに伝説上の人物でしかない。かれの行動はみんなが知っているが、現実の人間としてのかれについては、だれもなんにも知らない」
「かれは特別なのよ、だれのこともこんなに正確におぼえているわけじゃないわ、ガリオン。なんといっても、わたしがかれと結婚してたかもしれないんだから」
「〈鉄拳〉と?」
「アルダーが父に言ったのよ、娘のひとりをリヴァ王のもとへ送って妻とせよとね。父はベルダランとわたしのどちらかを選ばなくてはならなかったの。老いぼれ狼の選択はまちがっていなかったと思うけど、やっぱり〈鉄拳〉のことは特別の目で見てしまうわ」ポルガラはためいきをついたあと、ちょっぴりいたずらっぽくほほえんだ。「わたしじゃいい奥さんにはなれなかったでしょうけどね。妹のベルダランはかわいくて、やさしくて、とてもきれいだったのよ。わたしはやさしくもなかったし、あまり魅力的でもなかったわ」
「でも、ポルおばさんは世界中でもっとも美しい女性だよ」ガリオンはすばやく反論した。
「やさしいのね、ガリオン、だけど十六歳のときのわたしは、世間の人がかわいいと呼ぶような娘じゃなかったわ。のっぽでひょろりとしてたの。膝はいつもすりむけていたし、顔はたいてい汚れっぱなしだったわ。あなたのおじいさんは娘たちのみだしなみに関しては、ずぼらだったのよ。何週間も髪をとかさないこともあったくらいでね。いずれにしてもわたしは自分の髪があまり好きじゃなかったの。ベルダランの髪はやわらかくて、金色をしてたけれど、わたしのは馬のたてがみそっくりで、このへんてこな白いすじがついていたから」ポルガラはなにげなく櫛で左のはえぎわの白い房をさわった。
「どうしてそこが白くなったのかな?」ガリオンは好奇心からたずねた。
「あなたのおじいさんがはじめてわたしを見たとき――わたしがほんの赤ん坊だったとき――片手でここにさわったの。くなったわ。わたしたちはみんななんらかのしるしをつけられているのよ。あなたのしるしはてのひらにあるでしょう。わたしにはこの白い一房。あなたのおじいさんは心臓の真上にしるしをもっているわ。場所はそれぞれちがうけれど、意味するものは同じなのよ」
「どういう意味?」
「わたしたちであることと関係があるの」ポルガラはエランドに向きなおって口をむすんでかれをみつめた。それからエランドの耳のすぐ上の巻毛をやさしくなでた。「とにかく、いま言ったように、若いときのわたしは荒っぽくて、がんこで、ちっともきれいじゃなかったのよ。〈アルダー谷〉は少女が成長するにはあまりいいところではないわ。気まぐれな魔術師たちじゃりっぱな母親がわりというわけにもいかないしね。かれらは子供がいることをよく忘れたのよ。谷のまんなかにあるあの古い巨木をおぼえていて?」
 ガリオンはうなずいた。
「あるときわたしはあの木にのぼって、二週間も木の上にいたわ。じゃまっけなわたしがいないことにそれまでだれも気づかなかったのよ。そういうことは年端のいかない娘に疎外感を与えるものだわ」
「どうやって気づいたの――ほんとうはじぶんがきれいだっていうことを?」
 ポルガラは微笑した。「それはまた別の話よ」彼女はまともにガリオンを見つめた。「さぐりあいはこのへんでやめない?」
「え?」
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